表具師店長の日記

文化財の入札に行ってきました!

1月31日に、文化財の襖の修理の入札に行ってきました!

これは、奈良県の文化財保存事務所が、国と一緒に修理しているあるお寺の襖の補修工事についての入札でした。

皆さんもご存じのように、襖は外の様子は良くわかりますが、出来上がってしまうと中は全くわかりません・・・

ですから、文化財保存事務所の出張所の所長さんも、「 張替えだけで事足りる!」 と 考えておられました。

しかし、破れている襖を片面はがされたらしく、下張がすべて浮いていた事が判明しました。

そこで、「 上張りの張り替えだけでなく、下張からさらには建付けまでもきちっと合わそう 」 という事になったらしいです。

簡単に下張と書きましたが、文化財として補修する襖だから 手が込んでいます。
 

・下張り
  下地骨両面に6種8層の下貼りを施し、よく乾燥させる。

  下張りの工程は下記の通りとする。


 

種別

紙の種類

回数

手順

1.

骨縛り

厚手楮紙

1回

下地骨が歪まぬよう、框と組子に濃い小麦澱粉糊(新糊)を付け、厚手楮紙を貼る。
 

2.

胴張

間似合紙

1回

紙の全面に糊を付け貼り込む。

  

3.

蓑掛け

楮紙

3回

枢と竪組子の上だけに新糊をつけ、細長い楮紙を三分のーずつずらしながら簑状に貼り重ねる。
 

4.

蓑縛り

楮紙

1回

蓑掛けで段々となった状態を、楷紙を全面新糊付けで貼ることで、平らな一枚の面にする。
 

5.

下浮け

楮紙

1回

小さく切った楮紙の周囲のみに新糊付けをすることで、袋状に浮かせる。
 

6.

上浮け

楮紙

1回

下浮けと同様、新糊で楮紙を袋貼りするが、二方を喰い裂きとして、下浮けの様な棒継ぎの段差を生じさせない。
 

上記が 下張りの仕様書の内容です

上記の仕様書を見て頂くと分かりますが、襖の表の紙の下に両面合わせて16枚の和紙を張ります。

( 4番までが本当の下張りで、5・6番は上張りをするための下張りです。談山神社の壁も同様に作業しました。)

と言っても、ただ単にペタペタと張り重ねるのではなく、途中で浮かす(空間を作る→蓑掛け)事で 下地骨に係る

力を和らげているのです。 「 先人の知恵 」 って 素晴らしいですね \(^o^)/

でも、難しい言葉が一杯でしょ (^_^;)   知らない表具師さんもいるそうです・・・

実を言えば、ここの所長さんから昨年 突然電話が掛かってきて、見積もりしてくれませんかとの事でした!

そういえば、1昨年 談山神社の時もそうだったように、事務所の方でも大まかな予算を持っておかなくてはいけないからです。

結局、2回 (張替えの場合と下張からする場合) も見積もりをしました。

まぁ 入札の時に見積もりをしなくてはいけないので、後でするのも先にするのも一緒だと思い引き受けたのですが・・・

今年に入り、この仕事の入札の案内が来ました!

行ってみると、2点の 疑問が湧いてきました。

現地説明会に行ってみると、店長を含め5人が来ていました。その内 「 表具師 」 は 店長を含め2名 後は 「 建具屋 」 でした。

皆さん 表具師 と 建具屋 の違いを知っていますか?

表具師は、和室の内装のを扱う職業です。 ( 襖・障子の紙張り・掛軸・額・裏打ち・・・ )

建具屋は、同じ和室の内装でも を扱う職業です。 ( 障子本体・出入り口の戸・・・ )

表具師は建具屋の下請けに入り、建具屋が建具類と一緒に預かってきた襖の張り替えをするのは良くあることです。

多分この入札でも 建具屋が落とすと どこかの表具師が作業することとなるのでしょうが、

このようにきっちとした仕事をしなくてはいけない文化財に対し 直接責任を取れない者が入札に参加して良いものでしょうか・・・?

これが一つ目の疑問でした。
 

そして もう一点の疑問は 「 予定入札価格 」・「 最低入札価格 」 の公表でした!

これはどういう事か・・・   落札したければ、最低入札価格で入札すること! 自分で見積もりをする必要がない!

つまり、同額の者での 抽選である。

文化財の仕事を抽選で決める???  おかしいでしょう ・・・(`へ´)

自分で見積もりをすることで、これだけの仕事の為には材料費いくら手間いくらと数字を出し

きちっとした仕事ができる最低の金額を入れる。 これが 入札ではないでしょうか?

見積もりもしないで入札できるって・・・  これで良いの???

当然店長は、文化財保存事務所の方に 「 入札業者選定の件 」 「最低入札額提示の件 」 について抗議しました。

きっちっと仕事の出来る業者を選ぶことは出来ないのか? 「 最低入札額 」を提示せずに自分で見積もりをしっかりして

入札する方法に替えれないのか? と 私の思いをお話ししました。

このままでは、日本有数の文化財を誇る奈良県ですが、何年か後には 文化財に値しない内容の物が増えてくるのでは

と心配します。

しかし、答えは 県の規則に則って行っているとの事でした。

県に登録している方から選んでいるので、登録していなくてはお声掛けもない訳である。

その結果として、実際の現場では「 きっちっとした仕事が出来ていない 」 と言う その弊害が出ているのも事実だ

と 前出の所長さんが言っておられました (T_T)

本当にこれで良いのでしょうか?

是非とも皆さんのご意見を伺いたいです。どんなご意見でも構いません。一言コメントを頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします m(__)m

2012/2/3 書く

コメント

Down Arrow コメントをする
文化財の入札に行ってきました!

sumi様
コメント有り難うございます。確認が遅れお返事が大変遅くなってしまいました・・・

本当に「先人の知恵」というのは素晴らしいと思います。
襖に限らず 掛け軸・屏風等 色々なところにそのような知恵が見られます。
大事にしていきたいですね (^^♪

合理的 というのは良いかもしれませんが、そうでない方がいい時もあります。

これからも頑張ります (^^ゞ

  • 店長
  • 2012.02.18
  • 22:11
文化財の入札に行ってきました!

こんばんは

襖の下張り、襖の中がこんなになっていたのは正直
知りませんでした。何度も読んで、イメージして
襖が何故にそんなに軽かったのか、今頃解りました。
良かった~ 生きている間に知ることが出来て(大汗)

文化財を管理するには、古くからの慣例やしきたり
または規則が大きく重宝されると思います。
上手く運ぶ間はそれは無難でしょうね。

でも何事も永く続くと、それは馴れ合いや癒着、また
は無駄を生むことになるのも事実です。
どの世界も例外なくそうなって来ている様に思います。

店長さんのお仕事も今その壁に直面されて、歯がゆく
思われているんだと思います。
私も店長さんの疑問には同調いたします。
どうぞ、その純粋な思いを忘れず流されず、でも出る
杭を打たれずに頑張って下さいませ。

陰ながら応援させていただきます。
(何も知らないのに偉そうに、ごめんなさい。。。)

  • sumi
  • 2012.02.10
  • 00:58
文化財の入札に行ってきました!

てる様
続いてのコメント有り難うございます。
まだまだ『学ぶ』ほどの内容は有りませんが、少しずつでも皆さんのお役にたてるホームページにしていきたいと思っています。

これからもよろしくお願いします m(__)m

  • 店長
  • 2012.02.09
  • 06:07
文化財の入札に行ってきました!

(重複した投稿になってるかもしれないんですが…)

相変わらず寒いですね。
用語集、楽しみにしていますね!
メルマガも楽しく学ばせていただいてます~。
次号もお待ちしています。



  • てる
  • 2012.02.08
  • 22:54
文化財の入札に行ってきました!

てる様
コメント有り難うございます。
そして、私の意見に賛同していただき本当にありがとうございました。
これからも自分なりのこだわりを持って 活動していきたいと考えています。よろしくお願いします m(__)m

近いうちに、「用語集」のようなものを作ろうと考えています。
完成したらそちらをみて、表具のことをもっと知ってくださいね (^^)/

  • 店長
  • 2012.02.04
  • 21:50
文化財の入札に行ってきました!

毎晩すみません。
今日も厳しい寒さでしたね。

文化財入札にかんする店長のご意見、
ほんとにもっともだと思います。
抗議なさったとのことですが、
たとえそのときは聞き入れられなくても、
とても大事なことだと思うのです。
拍手したい気分です。


確かに、費用が税金でまかなわれている限り
「入札」という方法をとることは必要だと思います。
でも、今回のいきさつを拝読していると
「その場さえ繕えればよい」という空気がありありと見えてきます。

もし国や県が文化財をほんとうに「大切な財産だ」と考えるのなら、このような状況は早急に見直されなければならないと思いました。

ところで、「下張り」の工程、言葉はわからないことも多いですが、とても勉強になりました。
ありがとうございました♪

  • てる
  • 2012.02.03
  • 21:42

コメントする

名前

URL

コメント

当店の紹介
当店の実績
奈良県桜井市 お礼の品一覧ページはこちら
 なび奈良

奈良県桜井市の大神神社(三輪明神)の参道にお店がある大正12年創業の老舗 高梧堂(こうごどう)嶋岡表具店です。
近くには、邪馬台国卑弥呼の遺跡として有名な纏向遺跡があります。
古くなって傷んだ掛け軸・額・屏風等を1級表装技能士であり文化財保存修復学会会員であるベテラン表具師が責任を持って修理修復します。
又、書画などを掛け軸や額に表装(新調)致します。 大阪京都は出張見積り無料。

カレンダー
  • 今日
  • 定休日

の日は商品の発送はお休みさせて頂きます。
メールの返信やお問い合わせにつきましては、在宅時は対応させて頂きます。

お友達リンク
三輪の地図
あんしんクレジットカード決済システム

表具師店長の日記

嶋岡店長

こんにちは!店長兼表具師の嶋岡です。

京都で修行を積み、この道一筋35年。数々の古い表具の修理修復をしてきました。
お客さん第一で、納得のいってもらえる仕事をモットーとしております。
お気軽に声をお掛けください。
店長日記はこちら >>

下記にメールアドレスを入力し登録ボタンを押して下さい。

変更・解除・お知らせはこちら

ページトップへ